ECT実施マニュアル
本書の目的
術前の準備
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精神医学的な病歴の聴取
薬物アレルギー、緑内障の有無などを確認する。
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身体的な診察
義歯やペースメーカーの有無を確認する。特にペースメーカーは誤作動の恐れがある。
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内服中の投薬の確認
発作に影響する薬物(リチウム、抗てんかん薬、抗不安薬など)の有無を確認する。
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術前検査
採血、心電図、胸部単純写真、頭部CTなどを実施する。特に頭部CTでは頭蓋内占拠病変の有無に注意する。
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同意書の取得
本人の同意を得られない場合は、入院同意者から同意を得る
施行当日の準備
- 施行の少なくとも6時間前からは絶飲食とする。 午後に実施する場合は、朝食後より絶飲食とする。
- 病衣に着替えておく
- 施行前に、静脈路を確保し、排尿誘導しておく。 点滴には細胞外補充液(ハルトマン 500mLなど)を利用する
施行の手順
- 本人であること,必要な前処置が行われていることを確認し、患者を治療ベッドに移動する
- 血圧計,心電図モニター,パルスオキシメーターを装着し,バイタルサインを記録する
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右下腿にもう 1 つの血圧計カフを装着する(運動性けいれん発作のモニター用)
血圧カフを収縮期血圧よりも 10mmHg 程度高くして、カフより遠位に筋弛緩薬が到達しないようにする。
- ECT 装置の脳波・筋電図・心電図電極部位と刺激電極部位を準備し(記録電極はアルコール綿,刺激電極は生理食塩 水を含んだガーゼでよく拭き,乾燥させる),電極を設置する
- ECT装置をテストする
- セルフテストで回路のインピーダンスの適切性を確認する
- タップテストで脳波,筋電図の感度の適切性を確認する
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刺激変数を設定する
特定のプロトコル(年齢半分法など)に従って刺激用量を設定する。 酸素濃度の100%による酸素化を開始する
- バイタルが安定していることを確認したら,麻酔導入の開始を宣言する
- 静脈麻酔薬を投与する ラボナール 20mL
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意識が消失し,換気が万全である(年齢半分法など)ことを確認してから,筋弛緩薬を静脈内にボーラス注入。 筋弛緩薬ロクロニウム 商品名エスラックスを0.8mg/kgを目安とする。
拮抗薬はブリディオン。ただし、ブリディオンは非常に高価なため、アトワゴリバース(ネオスチグミンとアトロピンの合剤)を検討する。
- 線維性筋攣縮で筋弛緩薬の効果を確認し,下腿部での消失を確認する
- バイトブロックを挿入する
義歯は外しておく。 舌が口腔内で後下方に押されていること,顎が挙上されてバイトブロックに対してしっかり固定されていることを確認する。
- 人工換気を一旦止めて,電気刺激を与える 緑内障患者の場合は、眼圧の上昇を抑制するため、緑内障点眼薬を利用する。
- 人工換気を再開する
- 脳波上の発作と運動性の発作を観察し,両者の持続時間を計測する
- 運動性発作が終了したら,右下腿の血圧カフから空気を抜く
- 人工換気と呼吸・循環のモニタリングを継続し,できるだけ刺激の少ない環境の中で患者が覚醒できるようにする
- 自発呼吸を再開し,覚醒した後は,回復室にてバイタルサインをモニターし,呼吸・循環動態が安定するのを待つ
施行の手順
施術の準備
タニケットを左下腿に装着する。 加圧テスト(250〜300mmHgまで加圧)して、足背動脈の脈が触知しないことを確認する。
インピーダンスの調整
刺激電極を装着前に、皮膚を洗浄する。 インピーダンスを調べて調整する。
インピーダンスが3000Ω以上では、皮膚の火傷の恐れがある。 インピーダンスが機器の推奨範囲よりも大きい場合は、 1) 刺激電極の圧迫を強める 2) 伝導液をつける、などの対策を講じる。
刺激用量の設定 @mehul12, @abrams05,p.94
てんかん発作の閾値を超える電気刺激を加えて、発作を誘発させる。
発作の誘発に重要な因子は以下のとおり。
- てんかん発作の閾値
- 高齢の男性ほど閾値が高い
- 内服薬の作用(ベンゾジアゼピン系は閾値を下げ、リチウムや抗てんかん薬は上げる)
- 低いインピーダンスは頭皮で電流の短絡が生じて発作の誘発を妨げる
- 刺激用量は治療効果に最も影響する因子である
- ECTの施行回数が多ければ多いほど、閾値は上がる
刺激用量は回数を追うごとに増やす必要がある。
年齢半分法 half-age
年齢の半分の % から刺激を開始し、発作が不発の場合は刺激用量を1.5倍あるいは2倍に設定する。
刺激部位は両側ECTで実施する。
脳波モニタリング
発作が誘発されない場合の対処
良好な発作では、両側性の強直間代性発作で持続時間が少なくとも20~30秒程度あり、かつEEG上も同程度のてんかん波が出現している。
初回の刺激で発作がない場合、10~15秒程度待ったのちにおよそ1.5倍(50%)あげて再度刺激する。 発作が短時間発作(15秒以内)の場合、発作不応期を避けるため45秒以上の間隔をあける。 それでも発作がない場合は、さらに1段階あげて再刺激する。 再刺激は最大で4回まで可とされている。
遷延性発作の場合の対処
遷延性発作の定義は、運動性あるいは脳波上のけいれんが3分間以上続くものである。
遷延性発作の場合は、酸素濃度を適切に維持するための気管内挿管が必要かもしれない。
通常は発作活動が3分間を超えたら、抗けいれん作用のある麻酔薬やベンゾジアゼピンを用いて薬物により発作を中断すべきである。 例えば、ジアゼパム5mgを痙攣が終了するまで30秒ごとに静注する。
施行中の身体管理
全身麻酔下で筋弛緩剤を投与し、心電図、呼吸状態、脳波をモニターしながら身体管理を実施する。
- 筋弛緩薬には、サクシニルコリンを 0.5~1mg/kg、あるいは臭化ベクロニウム 0.08~0.1mg/kgを利用することが多い。
- 呼吸器では、換気を麻酔導入前より開始し、刺激の直前で中断し、刺激後に再開する。酸素飽和度を常に監視する。
- 電気刺激によって不整脈が誘発される場合があるので、心電図によるモニタリングは必須である。 徐脈の際にはアトロピンを利用することがある。
心血管系の管理
電気けいれん療法は、迷走神経反射を介して徐脈を生じることがある。 このため、術前に抗コリン薬であるアトロピンを投与することがある。 特にβブロッカーを使用している患者に対しては、麻酔導入直前にアトロピン(例えば、最低量0.4mg)を静注する。
治療スケジュール
最初は1週間に3回程度から始め、効果が現れはじめると週2回あるいは1回に減らす。 週3回のほうが効果発現が早いが、週2回のほうが認知機能への副作用の頻度が少ないという研究がある。
1コース中の総回数は、反応の早さと質、疾患の重症度、副作用の有無などで決まる。